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執筆者の写真Takumi Furusato

二次創作文化AMVが持つ可能性とその課題:Sugoi Media共同設立者Maddison Case氏へのインタビュー


1980年代のMTVが音楽産業に与えた大きな影響については今更語るまでもないだろう。それは映像と音楽が融合した新たなビジネスとして大成功し、今やヒット曲はそのミュージックビデオとは切り離して考えることは難しい。

近年、音楽と映像の世界に新たなムーブメントが起きている。アニメの映像を編集し、音楽に載せて動画を作るという手法で作成されたAnime Music Video (AMV)だ。2000年代に流行したいわゆるMADムービーと似ているが、編集ソフトの性能向上、価格低下によって動作品のレベルは格段に向上、2010年代中盤ごろからアメリカを中心に盛り上がりを見せるようになった。今回はこのAMV作成者向けのプラットフォーム”Sugoi Media”の共同設立者、Maddison Case氏にお話を伺った。


エンジニアのバックグラウンドを活かしたサービスの展開


Q.まずご自身のご紹介からお願いします


ええ、私はニューヨークにあるリベラルアーツカレッジのHobart and William Smith Collegesでコンピューターサイエンスを専攻したシステムエンジニアとしてキャリアを積んできました。IT企業のDNL OmniMediaやJABILでプログラマーとして勤務をしたのち、不動産取引の金融サービスを手がけるHomeAdvisorで働く機会を得て、2016年にコロラド州に移ってきました。以来、デンバーに在住しています。ここアメリカではこの数年来、Anime Music Videoが数多く制作されています。これは日本のアニメに曲を合成、編集したもので、以前はアニメコンベンションなどのイベントで数多く流されてきました。近年はSNS等に上げるケースも多いようですね。9か月ほど前でしょうか、私自身も初めてこれを制作してみて、その面白さに引き込まれたんです。自分の中にある創造性を、AMVという形で表に出すことができるのはとても心躍る体験だったのです。そこで私は考えました。「私よりももっと下の世代、高校生・大学生にも、この面白さにもはまる人はいるんじゃないか。」その人たちの助けになるような仕組みを作り上げたい、と思ったんです。


ロシアのAMVサイト「AMV News」が主催する“BIG CONTEST”の優勝者には5,000ルーブルの賞金が与えられるなど、世界規模で盛り上がりを見せている



Q.その中から出てきたものが今提供していらっしゃるSugoi Mediaなわけですね?


ええ、私たちのプラットフォームSugoi MediaはInstagramやtick tock、YouTubeなどで作品を発表しているクリエイターをサポートする目的で設立されたものです。まだ2020年12月にローンチした出来立てのサービスで、このようなサービスを提供しているところはほかにないと思います。



AMVが抱える著作権という課題


Q.AMVが現在抱えている問題とは何でしょうか?


前提として、これらのコンテンツはほぼすべて権利者からのオーソライズを受けていない、という点が非常に問題なのです。この状況がクリエイター・アニメ会社双方にとって好ましくはありません。クリエイターをサポートしながら、アニメ産業にもしっかりとした配慮をしていく、これがSugoi Mediaの目指しているところですね。私たちのシステムが実際本当に今後うまくいくのか、これが双方にとって利益となる仕組みとなるかは今後おわかりになっていただけると思います。



Q.権利関係についてですが、現状AMVの作成者は全く許可を受けないままに作っている、ということでしょうか。


少なくともここアメリカにおいてはその通りだと思います。というのも、そもそもの話としてどこに話を持っていけばいいのか、誰から許可を受ければいいのかが全くわからないという状況があるのです。作成者にとってこれは悩みどころとなっているのですね。そのようなクリエイターたちを私たちはサポートしていきたいと思っているのです。


私たちのサービスによって日本のアニメーターにも良い影響を与えられるものと信じています。アメリカで活動している私たちにも、日本のアニメーターの環境が決して恵まれたものではないという話は耳に入ってきています。日本のNPOアニメーター支援機構の菅原潤さんが中心となっている新人アニメーター寮/プロジェクト、これは収入が不安定になりがちな新人アニメーターを対象に住居支援や絵や作画の技術支援、仕事紹介などをおこなっている一連のプログラムですが、私たちのビジネスモデルもひいてはアニメーターの方々にも助けになるようものにしていきたいと考えているのです。海外にいる私たちがここで声を上げるより、日本のアニメーターの方々の声がもっと広く伝わっていくようにしたほうが、結果的により大きな助けになるのではないかと思いますね。



作品を広める手段としてのAMVの可能性



日本ではイメージしづらいことかもしれませんが、AMVの作成者はここアメリカを含めた諸外国では一種のインフルエンサーマーケティングの担い手となっているといえるかもしれません。つまり、彼らの使うアニメの映像が新しい視聴者を生み出す、そのような流れがあると思うのです。ですが、現状として作成者は著作権の侵害というリスクを背負って作品を作っているという現状があります。ここは私たちの活動によって変化をもたらしたいところですね。


一方で、アニメスタジオ側のメリットですが、特に小規模のスタジオには大きなメリットを作り出すことができると思います。大手のスタジオと比べて、小さなスタジオは資金的・人材的な理由から自分たちの作品に海外からの注目を集めるのは難しいでしょう。Crunchyrollなど海外の大手配信業者と契約して作品を放送したりするのはたやすいことではありません。そこで、このAMVの作成者に許可を出すことで、いわばインフルエンサーマーケティングによって自らの商品価値を高めることができるのではないでしょうか。



Q.すでにSugoi Mediaはサービスを開始なさっておられ、作品ごとにカテゴライズされ、シーンごとにリッピングされた動画を利用することができます。権利者からの許諾をまだ得ていないこの段階でサービスを始めるのはリスクなのではありませんか?


権利問題解決のためこれまでに権利者の方々にもアプローチをしてきたのですが、まだご返答をいただけていないのです。その一方で実際にサービスを始めないと、ユーザーが何を求めているかがわかりません。そこで、私たちはリスクを承知でこのサービスをローンチさせました。もちろん、この権利の問題をきちんと解決するまではこのサービスで利益を上げようと考えてはいませんし、だからこそ広告も載せていないのです。



SUGOI MEDIA トップページ。作品ごとにカテゴライズされている



Q.なるほど。あなたのビジネスモデルはとても斬新に思えます。その斬新さが故、アニメ会社を始めとするコンテンツホルダーには警戒されてしまうのではと思えます。このビジネスに対して、保守的な姿勢を彼らから示されたことはありますか?


実際のところ、それが今後解決しなければならない最も大きな課題となっています。これまで話をした幾人かのCEOの話では、やはりIPを好ましからざる形でネット上で使われてしまい、それをコントロールすることができなくなることをとても憂慮しているようです。ただ、皆「あなたのやろうとしていることはとても困難なものになるだろう」とは言っていましたが、「無理だ」とは言われたことはありません。可能性はあると私は感じています。


Q.日本の出版社は近年とくに自らの持つコンテンツの海外展開に積極的な姿勢を見せていますが、彼らとのコネクションというのはあるのでしょうか?


まだそちらとは関係を作っていません。ですが、AMVクリエイターの中にはアニメだけではなくマンガの絵も使っている人がいます。彼らとも今後交渉していくことができればうれしいですね。


Q.一般的に、アメリカのアニメファンはどのようにアニメを視聴しているのでしょうか?


主にストリーミングサービスを利用していますね。私個人はCrunchyroll、そして最近とみにアニメの視聴者が増えてきたNetflixを利用しています。それにFunimationを加えた三つのサービスがここアメリカで最もよくアニメファンに使われているサービスといえると思いますね。一方で、残念なことに違法アップロードサイトで視聴するケースもまだまだ多いというのが現状です。Sugoi Mediaはこの状況についても何か変化をもたらすことができると思っています。もし彼らが欲しい、自分の作品に使いたいと思っているアニメが一つの場所で、合法的に、エピソードごとに見ることができたら、利用しない手はないですからね。



Q.このプロジェクトを進めるにあたって、現在取り組んでいらっしゃる課題というのは何でしょうか?


課題は正直山積みです(笑)。私と共同設立者は今いろいろなライセンサーにコンタクトを取っているのですが、まったくのなしのつぶてということが多いですね。また、応答があっても、いつの間にか連絡が途絶えてしまうようなケースもあります。おそらく、これまでになかった新しいサービスということで、ラインセンサーのマネージャーたちは私たちのことをいぶかしんでいるのではないかと思います。AMVのようなアニメコンテンツのクリエイターたちをしっかりとサポートしていきたいと考えていること、そしてそのためのプラットフォームを立ち上げようとしており、この分野には多くの人々が情熱をもって加わってきていることをしっかりとお伝えしたいですね。また、立ち上げて間もないサービスであり、マネタイズがまだできていないという課題もあります。私も共同設立者ももともとエンジニア出身ということで、マーケティングの面がまだまだ弱いのです。その一方でSugoi Mediaのシステムをより改良していかなければならないという課題もあるので、そこは大きなチャレンジですね。



数秒のカットごとに分けられたアニメコンテンツ



Q.もし日本のアニメライセンサーに直接お話をすることができるとすれば、どんなことをお伝えしたいですか?


そうですね・・・まず、私たちとしては無制限ではなく、「しっかりとした基準に基づいた許可」をお願いしていることをご理解いただきたいと思っています。この問題は複雑ですが、きっと私たちがラインセンサーの方々と協力することで解決できると思っています。何もクレームや理不尽なお願いをしようとしているのではないのです。しっかりとした対話と協議によって、この問題の正しい解決方向へ向かうことができると思います。そして、そのために必要であれば私たちのリサーチによって情報をご提供できると思います。

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