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執筆者の写真Takumi Furusato

インドのアニメ・マンガコミュニティに今何が起きているのか?インドのアニメ情報サイト”Anime India”代表Arjun Goyal氏へのインタビュー


















13億人を超える人口を抱え、10年以内には中国を抜いて人口世界一となると目されるインド。若年層が多いこの国のマーケットは、アニメ・マンガ・ゲームビジネスにとって大きなポテンシャルがあると考えられてきた一方、ユーザーがどのようにそれを楽しんでいるかが見えにくい。今回はインドのアニメ情報サイト”Anime India”代表をつとめるArjun Goyal氏にインタビューを行い、インドのアニメ・マンガファンの動きについて伺った。


インターネット環境の向上が支えるアニメの広がり



Q.まずはご自身のご紹介からお願いします。


私はArjun Goyalと申します。アニメ、マンガ、映画などの情報をまとめたサイト”Anime India”の代表を務めていいます。私と私の友人、彼はIT企業に勤めているのですが、二人のやり取りからAnime Indiaのサービスが生まれました。アニメとは何か、どうやってアニメをみるのか、そういったことを伝えていきたいというアイデアがあって、このサービスができたというわけですね。現在、インドではアニメファンの数は日を追って増えてきており、『ワンパンマン』『僕のヒーローアカデミア』、そして『鬼滅の刃』といった作品には、大きなファンコミュニティができているほどです。ただ、そのなかでも最も大きなファンを獲得しているのは「ドラゴンボール」、そして「ポケモン」シリーズでしょうね。特に後者はキッズ層を対象としているので、地元のテレビ局にとって魅力的なコンテンツになっているのです。


Q.インドのファンはどのようにアニメを視聴しているのでしょうか?


現在、インドでは最大手のNetflixを始めとしていくつかのアニメストリーミングサービスが展開されており、ここで様々な作品を観ることができます。私たちのサイトAnime Indiaは2016年からスタートしているのですが、これにはインターネットコネクションの向上が大きく関係していますね。地元の通信業者であるJioが3Gから4Gに移行して、より安価でサービスを提供しはじめたのです。それによってモバイルの消費量がとても大きくなり、アニメの認知度も高まったのです。その一方で、多くのユーザーが違法アップロードサイトを使ってアニメを楽しんでいることも事実で、時にはそれが違法であると認識していないことすらあります。この状況に変化をもたらして、「適切な手段で」アニメを視ることを啓蒙していきたいと思ったこともAnime Indiaを立ち上げた理由の一つになっています。国も違法コンテンツ配信に対しては手段を講じてきており、2020年にデリー高裁はディズニーのコンテンツを違法に配信していたサイトの閉鎖命令を出すなど、国民に合法的なコンテンツの視聴を促す動きを見せています。


インドの代表的な通信業者Jio



インド国産アニメを囲む厳しい背景



Q.インドの国産アニメについて教えてください。10年以上前に、インドのアニメ会社が"Chhota Bheem"という独自IPのアニメを作ったことがありますが、こちらはご覧になったことはありますか?


ええ、私も私のきょうだいも見ていましたよ。インドのアニメ会社は他国の会社に比べるとリソースが少なく、色々なことを試してはいるのですが、比較的低年齢がアニメを見るというインドのテレビ事情に強い制約を受けています。例えば、"Chhota Bheem"や"Motu Patlu"のようなインド産アニメは低年齢層に浸透しています。重要な点は、こうしたインドにおける2D・3Dアニメーションの制作費用が、日本のアニメ制作よりもはるかにコストが安いことです。最近、私はアニメのコストについて分析した記事を書きましたが、『鬼滅の刃』や『ワンパンチマン』のようなアニメは、1エピソードあたり1,000万ルピー(約1,400万円)もの製作費が必要です。インドの企業はこれだけの制作費を出すことはできません。そのため、彼らはエピソード数を増やすために、人件費の安い、若く経験の浅いアニメーターを雇おうとします。日本のアニメーターが安月給で働かされていることは私も認識しています。しかし、インドのアニメーターの給料は日本よりもさらに安いのです。インドにおけるアニメーションコンテンツは、200万ルピー程度あれば、全部のエピソードを作れてしまいます。『鬼滅の刃』1話の2割の制作費があれば、インドではアニメ1シーズン分、20話全部を制作することができるということになります。こうした状況なので、インドにおけるアニメのクオリティは低く、ストーリーもアニメファンの求めるクオリティには達していません。そのため、子ども向けのアニメしか生き残っていないのです。


Q.つまり、インドの国産アニメは、10代の若者から見ると、子どもっぽい内容になってしまっている、ということでしょうか?


はい、ただ実際のところ、私も7年ほど前には"Motu Patlu"のようなアニメを見ていました。その頃は私も幼く、"Motu Patlu"が大好きでした。インドでアニメ関連コンテンツを放映している有名YouTuber達は、"Chhota Bheem"や"Motu Patlu"のようなインド国産のアニメを嫌っています。ただ、私はこうしたアニメに今も一定の敬意を持っています。こうしたアニメは小さい子ども向けのものであって、10代の若者向けのものではないですからね。彼らのようなYouTuberだって、今は嫌いだと言っているかもしれませんが、子どものころはこうしたアニメが好きだったはずです。偽善的になってはいけませんね。一方で、日本のアニメはストーリーラインの作り方が全く他国のものとは異なっています。もちろん、「クレヨンしんちゃん」をはじめとして、日本のアニメにもキッズ向けのものがないわけではないのは理解していますが、内容の幅広さという意味では全く違いますね。ヤングアダルト向けのものになると、例えば「進撃の巨人」のようにより深いテーマや描写を扱うことができます。ワンピース」や「ブリーチ」も、より大人に寄せたストーリーラインになっていますよね。それが私が日本のアニメにはまった理由の一つにもなっています。
















インドの国産キッズ向けアニメ"Chhota Bheem"



Q.声優についてお聞かせください。日本のアニメ業界においては、声優という仕事は専門性のある仕事として認められており、彼(女)らには多くのファンがついています。インドではどうなのでしょう?


インドにも多くの素晴らしい声優がいます。その中でも、Sanket Mhatre氏がインドのアニメファンの中で有名です。彼はNarutoの大ファンで、好きなキャラクターはサスケだそうです。彼はインドでアニメを放映したことのある様々な放送局などの会社に訪問し、 Narutoのサスケのセリフ吹替えを自ら行うので、吹替版アニメを放映しないか、と提案したそうです。ただ、これらの会社は彼の提案を呑むことを躊躇したようです。インドのテレビ局はこうしたアニメの吹替版をリスクを取って放映することには懐疑的で、ボリウッド・ムービーの放映に代表されるように、従来のリスクの低いコンテンツを選びがちだからです。インドにおいてボリウッド・ムービーは、日本におけるアニメのように大きな存在感を持っています。マサラ・ムービーにおいては、ヒーローが全てです。どのような経過をたどるにしろ、最後にヒーローが悪役を倒すという筋書きはどの作品も同じです。強いヒーローが、ロマンスや戦いにおいてうまくやっていき、色々な苦難を知恵を絞って乗り越え、最後には悪役を成敗して家に帰る。マサラ・ムービーにおけるヒーローは何でもできるから、インドの視聴者も安心して見ることができるというわけです。


Q.2012年頃に、日本の最大手のマンガ出版社である講談社がインド市場に目を向け、"Suraj the rising star"というクリケットアニメを放映していたことがあります。このアニメをご存じですか?

聞いたことはありますが、見たことはないですね。私のようなアニメファンでも見ていないということは、あまりインドでは成功しなかったのではないでしょうか。ただ、講談社の国際事業担当部長である古賀義章さんが最近、マンガのサブスクリプションサービスを2021年からインドで展開することを発表しているのは興味深いことです。これは約2,500のマンガが英語で読めるサービスで、私たちもこのサービス展開に関して、Manga Planetと講談社が提携することについて詳しく解説する特集記事を書きました。



出版社のモバイルアプリが日本マンガへの窓口に



Q.それはとても興味深いですね。インドのマンガ状況についてもお伺いできますか?


はい、実は私は自身をアニメファンというよりマンガファンと考えるほどマンガは大好きです。少年ジャンプはここでも最も知られているマンガの媒体です。私も愛読者の一人ですが、スマホアプリのおかげでほぼ日本の連載とタイムラグなく読むことができています。2016年以前はジャンプのアプリがなかったため、日本のマンガにアクセスするのは正直とても困難でした。ですが、今ではサブスクリプションでチャプターごとに英語で読むことができるわけですご存じの通り、英語はここインドでは公用語となっており、私も中学校から英語を学びだしました。ヒンディー語が最も一般的な言語ではありますが、インドは世界の中でも言語が非常に多い地域になっているので、公用語が必要なわけですね。ちなみに私の母語はパンジャーブ語です。ここインドには大きく分けて5つの言語があるのですが、それぞれに非常に多くのオーディエンスがいます。例えばパンジャブ語の話者は2億人ほどいるといわれているわけです。インドは大きな国で、人口は日本の約10倍です。この人口の1%だけでもおさえられれば、欧州のマンガ・アニメファンの市場よりも大きいということになります。これはアニメでも同じことが言えると思いますが、もし作品をここインドで成功させたいと考えるのであれば、ヒンディー語やタミル語などに対応するのが一つの手段になると思います。



Q.集英社や講談社、その他の出版社のコンテンツが、インドのマンガファンにも直接アクセスできるようになっているというのはすごいことですね。


現在、私よりも若い世代の学生などはお金がないのでアニメにはお金をかけていませんが、将来彼らが就職すれば、Funimationなどにお金を払って視聴するようになると考えています。ただ、Funimationは現在インドでは視聴できませんけどね。Crunchyrollはインドでも視聴可能ですが、Crunchyrollで見ることができるタイトル数は90-100程度に過ぎません。

欧米のアニメファンはお金を払うだけの余裕があるため、アニメ視聴サービスなどは今市場性のある欧米市場の進出を優先しがちです。ただ、日本の集英社や講談社のような会社が成功パターンを見出すことが出来るようになれば、インドも非常に良い市場となると思います。


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